ブックレビュー『ぼくのまつり縫い 手芸男子は好きっていえない』
ハンドメイドや手仕事が登場する映画やコミックス。ある・みるMEDIAではこれまで、様々なハンドメイドやものづくりを描いた作品をご紹介してきました。
今回は初めて児童書ジャンルから『ぼくのまつり縫い』を取り上げます。手芸が大好きな主人公の少年が、ものづくりを通して少しずつ自分らしさと向き合っていく物語です。多感な時期だからこそ心に響く一冊をご紹介します。
あらすじ
手芸が好き、ピンク色が好き、かわいいものが好き。自分の中に当たり前に存在していた「好き」を、針宮優人は中学生になった時に隠すと決めた。周囲にからかわれないために。
手芸は自宅での巾着づくりに留めて、それ以外では封印。中学ではじめてできた友人であるカイトとともに入部したサッカー部で靭帯損傷のケガを負い、部活を休んだある日の放課後。ほつれた裾上げをまつり縫いしているところを、同じクラスの糸井さんに見つかり、強引に助っ人を頼まれてしまう。彼女が優人を連れて行った先は、被服部だった───
糸井さんを筆頭に、明るいマスミン先輩、男子が苦手なサンカク先輩とともに、ファッションショーの成功を目指すことに。再び手芸の楽しさに触れた優人は、隠そうと決めた「好き」への気持ちに向き合っていく。
第5回集英社みらい文庫大賞優秀賞受賞の神戸遥真著、表紙と挿絵を『家が好きな人』で、フランス最大級の読書SNS「Babelio(バベリオ)」が主催の文学賞「バベリオ賞 2026(Prix Babelio)」の漫画部門を受賞した井田千秋が手がける児童書シリーズ、『ぼくのまつり縫い』の第一作。

揶揄されてしまった「好き」
洋裁に長けた母のもとで、裁縫に興味を持ち好きになった。なにも不思議なことはないのに、意図せずからかいの対象となってしまった経験は、優人の心の中にある「好き」と世界とを隔てるきっかけとなってしまった。
誰かに自分の好きなものを、「なにそれ」「変なの」と言われて悲しい思いをしたことが筆者にもある。私の場合は母からの言葉だったけれど、子どもの頃に浴びた揶揄する言葉はひどく脳裏にこびりつくものであったりして。大人になってからも時折、心がヒリッと痛むことがあった。
友達からピンク色や手芸が好きなことを「男子であること」を理由にからかわれるという理不尽を、しかと受け止めてしまった彼の気持ちがよくわかる。そして大切な人には自分の「好き」を知っていてほしい気持ちも。だからこそ、上手く出来ないなりに手芸を楽しんで、まっすぐに好きでいる糸井ちゃんはとても眩しいキャラクターで、優人や「好き」をからかわれたことがある読者を優しく照らしてくれる。
向き合うことと取り戻すこと
一度隠すと決めた優人は、自分の好きなことを知られてしまうことに臆病になってしまっているようだった。同時に好きなものから少しだけ距離を置いて、もっと好きにならないようにセーブして。
一度そうして見ないようにしたものを改めて直視するのは、大人であっても躊躇われるものだと思う。それをゆっくりと、ひとつひとつ段階を経て向き合う様子は、まるで当たり前に手芸や裁縫を好きでいた頃を取り戻していく様に見えた。
それを糸井さんや先輩たちは否定もしないし、わかりやすく見守ったりもしない。ただ、隣で自分の制作物を縫ったりしているだけ。「好き」を当たり前のままに過ごしている人の輪にただ居られたから、焦らず自分のペースで向き合っていけたのではないだろうか。

さいごに
本作のジャンルは児童書ですが、大人が読んでもやわらかい読み物として楽しめる物語です。自分の中学生時代を振り返る懐かしさや、子どもの頃の世界を覗き見るような。お子さまにも、もちろんおすすめ。手芸に限らず、なにか好きなものがあるならば共感出来る部分もあるのではと思います。
制作の息抜きや贈り物のヒントになれば幸いです。
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