頑固な和紙職人の最期と記憶 映画レビュー『つむぐもの』
目次
- 1.あらすじ
- 2.職人としての生と死
- 3.作り手の心に寄り添ったヨナ
- 4.さいごに

和紙をつくる。伝統的な手仕事を生業としてきたひとりの男の頑なな心を解くことは出来るのでしょうか。
今回ご紹介する作品は、『つむぐもの』。愛する人を亡くし心を閉ざす和紙職人と心を開こうとしない韓国人女性との心の交流を描いた作品です。
あらすじ
越前和紙職人の剛生は頑固で偏屈。少し前に妻を亡くし人手が足りないものの、誰の手助けも受けまいとしていた。そんな中彼自身も脳腫瘍に倒れ、一命は取り留めたものの日常生活に支障が出てしまう。もちろん、誇りある職人としても……
一方ヨナは仕事にも身が入らず不真面目に振舞い、博物館での職を失ってしまった。研究職の父のツテで、何も知らぬまま韓国から単身福井へ住み込みで剛生のヘルパーとしてワーキングホリデーにやってきた。はじめはお互いに毒づいてばかりだったふたりは、生まれ育った国も年代も、話す言葉も異なるところから徐々に絆を深めていく。
ヨナ演じるキム・コッピと剛生演じる石倉三郎のW主演の、伝統工芸である越前和紙づくりが盛んな日本・福井県丹南地域と世界遺産百済考古遺跡を持つ韓国・扶余(プヨ)を舞台に描いた犬童一利監督作品。(配給:マジックアワー/2016年)
職人としての生と死
「死など怖いものか」。頑なに他者の差し伸べる手を掴もうとしない剛生に痺れを切らした近隣の工房で和紙を作る仲間から「死ぬ時にひとりだと惨めだ」と言われた彼は、そう答えました。和紙作り一筋で生きてきた不器用な男にとって手仕事は命。自身の死よりも、脳梗塞で半身が不自由になったことで和紙を漉くことが出来ないことの方がよほど……。だから死などこわくない。作ることが出来ないことの方が辛いから手放さまいと、思うように動いてくれない身体を必死に動かして和紙を漉こうとする剛生の姿は、ものづくりを愛する身として深く心に刺さります。
作り手の心に寄り添ったヨナ
剛生は手仕事への固執を見せる一方、新しいことや生活の変化へは抵抗感があり、手助けをしようとするヨナや周囲を遠ざけてしまいます。
悪態をつかれたヨナは、はじめは少し離れたところから彼を見守っていましたが、側で小間使いを続けていると次第に彼にとって和紙づくりがいかに大切なものであるかを理解していきます。言葉はあまり通じてはいませんが、彼の懸命に和紙を漉こうとする背中が、きっと彼女に気付かせたのでしょう。
剛生の和紙に憧れて移住し職人見習いとなった宇野が和紙づくりの実演をしていると聞いたヨナは、剛生に一緒に実演をしようと提案します。新しい挑戦にはじめは頭ごなしに否定する剛生でしたが、彼女が少しずつ理解をしてきたことを肌で感じるようになったのか、了承。彼の中にも少しずつ変化が訪れます。

さいごに
頑固者同士がものづくりを通じて心を開く本作は、年齢や境遇問わずものづくりを愛する人に響くのではないでしょうか。最後は筆者も思わずグっときてしまい涙をこらえた場面もありました。
ぜひ制作の息抜きや、ものづくりを描いた作品に触れたい時にチェックしてみてください。

