暮らしのてしごと×スクールライフ コミックレビュー『寿々木君のていねいな生活』
目次
「ものづくり」と一言で言っても、趣味の作品づくりから暮らしに根差した生活に近いものまでさまざま。今回ご紹介するコミック『寿々木君のていねいな生活』の主人公は、後者のものづくりを愛する男子高校生。
作品の制作ではありませんが、暮らしなど身近なところに向けたものづくりに触れる心温まる本作をレビューいたします。
あらすじ

高校の入学式の朝、通学途中に主人公の寿々木薫は電車内で酔っ払いに絡まれてしまう。外見は少しこわもてな寿々木君ですが、内面は外見からのイメージに反して料理やハウスキーピング、お菓子づくりやハーブの世話、裁縫とてしごと全般が趣味のおとなしい性格。困っている彼を助けてくれたのは小柄な美少年、春名新。偶然が重なり同じクラスになった、異なるベクトルで“見た目通りじゃない”ふたりを中心とした、ほっこりスクールライフ。(ふじもとゆうき/白泉社)
好きなことを「好き」でいること

こわもてな寿々木君はとても世話焼き。自分に煎れるついでとはいえ忙しく働く母へもハーブティーを振る舞ったり、幼い妹のために人形の洋服を拵える。嬉しいことがあったらお菓子をつくって、お世話になった友人に渡す……そんな風に暮らしの延長線上にあるものづくりを楽しみ、周りをよく見て困っている人の役に立つように行動しています。どれも寿々木君が好きでしていることですが、彼は中学時代にクラスメイトからそういう振舞いと外見のギャップを「気持ち悪い」と揶揄われてしまい、そんな自分に後ろめたさを感じるようになりました。高校生になり、後ろめたく感じていた「好き」なことを、「見た目通りじゃなくていい」と認めてくれたのは、自身もまた見た目と特技にギャップがある春名君でした。
好きなことを否定された経験があったり、否定されている様子を目にすると「好き」への自信がなくなってしまうことは珍しくありません。そんな中で、春名君と出会い「好き」に自信を持っていく寿々木君の様子は「好き」を持っている人の癒しになります。
てしごとで誰かを幸せにすること
好きでやっていることでも、それが誰かを喜ばせるものになると作り手冥利に尽きるというか、やはり嬉しいものです。自分のためのハンドメイドだったものが、作品として誰かの手に渡り喜んでもらう。そんな構図の原点、オリジンのような小さな喜びを寿々木君は得ていきます。はじめは家族、高校生になってからは友人たちに。自分のてしごとや心配りに喜んでもらうという、小さな喜びは彼の中だけでなく読み手の心にもあたたかく降り積もっていきます。「ああ、自分もこういう風に喜んでもらえたな」もしくは「こんな風に喜んでもらえたら嬉しいな」なんて自分に重ねる経験もあるかもしれません。
さいごに
ものづくりが好きという作品づくりのもっと手前にある原点のようなものに触れてくれる作品でした。
『寿々木君のていねいな生活』は2025年9月時点で3巻まで発売中!寿々木君の恋の行方や、家庭科部へのスカウトなど気になる展開も続いていきます。ぜひ制作の息抜きなどにチェックしてみてください。

