妖精たちのための特別なドレス作り コミックレビュー『妖精のおきゃくさま』
小さくて愛らしいドール服……ではなく小さな妖精たちのための華やかなワンピースを仕立てる。今回はひとりの洋裁家と、彼女のアトリエに舞い降りた妖精の触れ合いを描いたコミック、『妖精のおきゃくさま』をご紹介します。
あらすじ

主人公の景子は自宅兼店舗・工房で寝る間も惜しんで制作にはげむ洋裁家。制作で寝不足だったある日、景子の前にひとりの妖精が現れ「栗をさしあげますのでお願いきいてくださいませんか?」と一輪の朝顔の花を差し出した。まるで白昼夢化のような光景に、ついに無理がたたったのだ、と思いながらも妖精からのオーダーをかなえ、妖精のために朝顔を使ったワンピースを仕立てるのだった。
妖精は「ヒメ」と名乗り、いつしか工房の手仕事を手伝うように。ものづくりの楽しさに目覚めていく妖精のヒメと、彼女に優しく寄り添う景子の瑞々しく心温まる日々を繊細で美しいタッチで描いたファンタジー作品です。
『妖精のおきゃくさま』(脇田茜 著/双葉社/2021)
妖精のインスピレーション

ヒメがはじめて景子にオーダーした素材の朝顔は、偶然にもすぼまった上部から下に向かって広がっていくフレアスカートの由来の花。(朝顔の形に開くという意味の英語「flare」が由来なのだとか)もちろんヒメがそのことを知る由もないので、偶然の一致です。
しかし景子はそれが偶然で、しかも布ではなく生花をそのまま服の素材にしてほしいと言った彼女の発想を否定しませんでした。その様子はごく自然な流れとして描かれていますが、言葉を飲み込まずに「生花はお勧めしないので布で作りましょう」と言うことも出来たはず。一見突飛に見えるアイデアを否定せず、受け止めてくれる存在ってとても貴重だと思うのです。ものづくりの師弟関係ではありませんが、家族や友人から作ったり描いたりしたものを「それって変じゃない?」なんて言われてショックを受けた経験が、筆者にもあります。ヒメがもつ発想やインスピレーションを真っすぐに受け止めて尊重する景子のおおらかさは、そんな経験をしたことのある筆者のことも優しく受け入れてくれているような気持ちになりました。
技術とともに手渡される「ものづくりの楽しさ」
「この工程、面倒だな」と思うけど、どうしてもこれを作りたい!と感じた経験はないでしょうか。
景子から自分自身でも服を作ることを提案されたヒメ。はじめはピンときていませんでしたが、景子が自分にしてくれたように誰かのために洋服を作ることを思い浮かべてみると、心がホコホコと熱を帯び、自分で作った洋服で仲間たちに喜んでもらいたいと思うようになりました。それをきっかけに洋服作りのため意欲的に学び、洋服作りに取り組みはじめます。人間と妖精、種族は違っても手仕事の持つ楽しさは変わらないのです。洋服作りは様々な工程があり凝ろうと思えばいくらでも手間がかかり、大変。しかし大変だけでもないのです。ものづくりには「大変なこと」と「楽しいこと」という相反して見えるものが同時に成り立つことが珍しくなく、それこそがものづくりの持つ楽しみではないかと筆者は考えます。
技術とともに「楽しさ」が手渡され、それが教えられる側に染み込んでいくところはやはり読んでいてワクワクするものです。
さいごに
ファンタジー要素の強いストーリーではありますが、読んでみるとものづくりの魅力がしっかり詰まった、ハンドメイドファンに勧めたくなる作品でした。
2巻完結で、制作の合間に気軽に読めるところもオススメなポイントです。ぜひチェックしてみてください!