疲れた心に手作りの愛を コミックレビュー『お疲れお兄さんは手芸沼につかりたい』
目次
テレビをつければ不穏なニュース、SNSを開けば誰かが誹謗中傷を受けていたり、強い言葉で議論していたり───
仕事やオフラインでの人付き合い以外にも疲れる要素が山積する現代社会。今回はそんな現代社会に疲れた主人公がハンドメイドと出会うコミックス、『お疲れお兄さんは手芸沼につかりたい』をご紹介いたします。
あらすじ
「俺は今日から刺繍をはじめる」
田中太一、28歳のデザイナーでサラリーマン。業務過多ぎみの仕事にも、SNSに溢れるまるで爆撃のような情報の波やひっきりなしに届く仕事のチャット……現代のネット社会に疲れ果てた先で求めたのは無心になることだった。そのために見よう見まねで刺繍にチャレンジするも上手くいかない。肩を落としていたある日、彼は手芸店でロリィタ姿の女性───行きつけの居酒屋のアルバイト店員さよこと偶然出くわす。
彼女の誘いで「お裁縫の会」に参加し、初めてのハンドメイド仲間と出会い、初めてのマルシェに参加!“初めて”が詰まった、社会人ハンドメイドコメディ!
『お疲れお兄さんは手芸沼につかりたい』(味田マヨ/フレックスコミックス/2022年)
ハンドメイドに“ハマる”姿
主人公の田中さんがハンドメイドの世界に足を踏み入れた理由は「無心になるため」。彼と同じようにハンドメイドの無心になれるところが好き、と感じている方は少なくないのでは。筆者もそのひとりで、大好きなぬいぐるみ用の衣装を作っていたら気付けば数時間経っている、なんてことが珍しくありません。無心でミシンに向かい、完成した時の清々しい達成感。次はなにを作ろうかなと思い巡らせるひと時はとても幸せです。
田中さんはそんな無心になれるひと時を、さよこの誘いで彼女の通うハンドメイドサークルで過ごすようになります。手芸サークルで出会った人との交流や、存在も知らなかったマルシェやハンドメイドフェスへの初参加で、田中さんの世界がどんどん広がっていく様子は見ていてわくわくします。職場の歯車的な思考で商業デザイナーとしてやりがいを見失っていた時、仲間の名刺制作をかって出てそれに感謝されることで仕事へも熱意を持てるようになった場面では同じ社会人として嬉しくなりました。彼が公私ともに建設的にハンドメイドにハマっていく姿に、かつて初心者だった頃を思い出し、つい自分と重ねてしまいます。
誰にでもあったハンドメイドの“入口”
誰にでもある初心者だった時期。今まさにハンドメイドの入口にいる初心者の読者様もいらっしゃるかもしれませんね。
はじめたての頃のお手本通りにならないとか、なかなか作業時間が取れなくて何日も制作や練習が出来ていなかったり、ついつい楽しそう面白そうという気持ちだけでキットや用具、素材を買い込んでしまったり……田中さんの行動には多くのハンドメイドファンが思い当る節のあるものが多々あり、つい「わかる!」と頷いてしまうことも多々。
純粋にハンドメイドを楽しむ彼の姿に、同じハンドメイドファンとしてきっと応援したくなるはず。
さいごに
『お疲れお兄さんは手芸沼につかりたい』は、「ハンドメイドを楽しむこと」にフォーカスした作品で、田中さんと同じく刺繍を楽しんでいる方はもちろん、それ以外のハンドメイドに愛を注いでいる方にもおすすめのコミックスです。
制作の気分転換にぜひチェックしてみてはいかがでしょうか。