職人としての尊敬と恋心 コミックレビュー「青の花 器の森」
目次
- 1.あらすじ
- 2.作り手として心惹かれる
- 3.波佐見焼への興味
- 4.さいごに
作品と作り手の人柄は関係があるものでしょうか。それとも作品とは別物でしょうか。
今回は長崎県波佐見市の窯元を舞台に、絵付けを愛する絵付師と良い作品を作るのに不愛想な陶器職人の交流と恋模様を描いたコミックス、『青い花 器の森』を紹介いたします。
あらすじ
舞台は「波佐見焼」で知られる焼き物の町、長崎県波佐見町。絵付師をする主人公の青子(あおこ)の仕事場である窯元へ、北欧で陶器づくりをしていた龍生(たつき)が訪れる。彼の「絵付けされた器に興味はない」という言葉に、青子は絵付師としての人生そのものを否定されたように感じてしまった。作り手としてのふたりは、反発し合うものの青子は次第に龍生
に惹かれてしまい───
『坂道のアポロン』『月影ベイベ』を描いた小玉ユキの最新作。器を通して心惹かれていく、大人の恋愛マンガです。
『青の花 器の森』(小玉ユキ/小学館)
作り手として心惹かれる
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「絵付けされた器自体に、興味がないんで」
初対面の龍生に冷たくあしらわれ、あまり良い印象を持てなかった青子。ひょんなことから彼を家まで送ることになり、彼がフィンランドで制作した器の出来の良さを目の当たりにします。絵付けのされていない、真っ白な器を手にした瞬間、器にぱあっと絵付けの模様が浮かび上がる不思議な感覚に襲われました。絵付師として生きる青子が、龍生の作品に魅せられてしまった瞬間です。
それをきっかけに、青子は彼の作品を柔らかく受け止めるようになり、龍生自身や彼の製陶のスタンスについても認めるようになります。もちろんすぐにそうなれたわけではなく、共作した商品を窯元のイベントに出品したり、ふたりでコンペに参加したりしながら、少しずつ心を開いていきました。彼女だけではなく龍生においても同じで、青子が自分の作品とスタンスを受け止めてくれていることで、頑なだったものを解いていく……。“器”を通して、柔らかな関係を築いていくふたりの恋模様はヘルシーでとても自然です。
波佐見焼への興味
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恥ずかしながら、陶芸や焼き物についての知識があまりなかったこともあり、本作を読むまで波佐見焼を存じていませんでした。なので読み始めるまで窯元といえば手びねりで作家が焼成や絵付けなどの仕上げるイメージで。しかし作中でも青子が説明している通り、波佐見焼の制作は分業制。工程毎にそれぞれその工程のプロフェッショナルである職人がいます。つくり方の特性を知ることが出来たことも新鮮で、本作を読んでよかったポイントでした。
何人もの職人の手を経て完成する波佐見の器。青子が生活の一部の生業として龍生や同僚たちとつくり上げる様子を見ていると、器の存在が実際の生活の近いところにあるように感じられて、読んでいく内に波佐見焼自体へも興味が出てきました。実際に小売店の食器コーナーで「波佐見焼」の文字を探してしまったほどです。きっとあなたも本作の読後には、青子と龍生が携わる波佐見焼に思いを馳せてしまうことでしょう。
さいごに
登場人物たちの職場という舞台装置としてだけでなく、脈々と受け継がれてきた工芸としての波佐見焼も描く『青の花 器の森』。ものづくり系マンガとしても恋愛マンガとしても楽しめる、一度で二度おいしい作品です。
作品づくりの息抜きや、モチベーションアップにチェックしてみてはいかがでしょうか。