心を和ませるユルかわいい魅力 張り子作家、harikokkoの世界【後編】
あいまいな曲線に命をふきこむ、張り子人形。古くから愛されてきた張り子にあたたかくユーモアたっぷりに表現する作家、井上千裕さん。
前編では張り子作りをはじめたきっかけや制作への思いを伺いました。
インタビュー後編、ぜひ前編と併せてお楽しみください。
───作業台にあるのは鬼のお面でしょうか。
「そうです。鬼は節分用によく作っています。張り子は年末年始頃が一番需要があって、その時期に向けていろいろな作品を準備しておかないといけないので、今のうちから準備をしています。」

───まだ夏のうちに年末の準備をしているんですね!
「特に次の年末年始は力を入れたいと思っているので、早めに準備をはじめています。」
───そうか、張り子は通年のものでありながら需要が高まるシーズンがある。
「張り子は縁起物や干支を伝統的にモチーフとしてよく扱っているんですが、夏は縁起物を飾るお正月や節句などの行事が少ない時期なので、スイカやビールといった季節を感じさせるモチーフの作品を置いています。10月頃はハロウィンのモチーフの作品とか。ショップに来てくださるお客様に少しでも楽しんでもらえるように、毎月何かしら新しいものを並べるようにしています。」
───なるほど。需要に対する工夫ですね。
「毎週ポップアップショップを出していると、こうやって常に作品を入れ替えようと考えるきっかけになるので良いですね笑 作品作りへの強制力があって、ダラダラ制作しないで済んでいます。」
───今後作ってみたい作品やモチーフはありますか?
「そうですね……モチーフではないのですが、今までに作った最大のサイズがこの右側の招き猫の大きさなので、もっと大きなサイズの作品を作ってみたいですね。」

───因みにひとつ作るのにどれくらいの期間がかかるのでしょうか。
「ひとつ毎に作っているわけではないので、正確にこれくらいの期間がかかるというのはないんです。
型に紙を貼って、乾かして、型を割って貼り合わせるといった工程毎にまとめて制作をしていて、今は夏で乾くのが早いので、貼って乾かして貼って乾かしてを繰り返してベースを作り溜めしています。」
───それで既に年末のものも準備されているんですね!
「本当に今の時期はすぐ乾くんですよ!作っても作ってもまだ乾く。」
───作り溜め時ですね。
「材料や製法は作家さんそれぞれなので、進め方も様々あると思います。
たとえば私は絵付けの前の下地に、胡粉という日本画でも使う白い顔料を塗っています。優しい色と質感がとても気に入っているのですが、胡粉は生ものなので、季節による気温や湿度変化の影響を受けます。」
───大変ですね。一旦全部胡粉で白く塗ってから、絵付けされている。
「私は今のところそうしていますが、和紙自体もとても美しいので、いつかコーティングしない製法でも作ってみたいと思います。やってみたいことは尽きません笑」
───どこかへ弟子入りして習っていないからこそ、いろいろな製法にチャレンジ出来たりするのでしょうか。
「それもあるかもしれないですね。
独学だからこそ自分の興味のままにつくることが出来ていますが、古い張り子人形や熟練の職人の作品を見るほど、どうしてそうなったの?!と思うような面白くて大胆なデザインも多いので、張り子の世界は元来懐が広いのでは、と思います。」
───伝統的な張り子も様々なんですね!
───ポップアップショップにはイラストレーションの作品も並んでいて、どこか張り子人形の雰囲気に似ていますね。

「これは作った張り子をイラストにして、リソグラフで印刷したものです!
ご依頼いただいて描くイラストは、描くものが決まっていたり相手が求めているものをかたちにするものなんですが、同じイラストでも張り子に関わるものは自由な気持ちで作れています。
最近は少しずつ販売していただく機会が増えてきたので、お値段やサイズ感でこの方が売れやすいかな?と考えることもあるんですが、やっぱり張り子を作る時は心をユルく解いて、なるべくリラックスした気持ちで楽しく作る方がいいものが作れる気がしています。」
───リラックスすることが、コツ。
「そうなんです!やっぱり楽しく作っている方が、張り子の良さが伝わると思うので。
この張り子たちをすごいストレスの中で作ってたとしたら、ちょっと怖いですよね笑」

───たしかに、どれも柔らかい表情の作品なのに悪い意味でのギャップが出てしまいますね。
「すごくイライラしながらの状態では……ちょっと作れないですね笑」
───ぜひ穏やかな気持ちで作っていてほしいです笑
お話を伺っていると、併設のチョコレート屋さんにもお客様が見え、店内はより和やかなムードに。
「ポップアップショップで絵付けの作業をするのは、気持ちの切り替えにもなるんです。」
───なるほど。
「ここは涼しくてカカオのいい香りがしていて。作業をしているとご近所の常連さんが来て話をしてくれたりして、気持ちも穏やかになって。そうして関わってくれたり足を運んでくださる人たちに向けて作ろうって思えて。」
───どうしてもハンドメイドは自宅や作業場にこもってしまいがちですよね。
「そうそう、そうなんですよ!自分一人で作っていると、煮詰まってなんのために作ってるんだろうって気持ちにもなることもあるし、そういうのって心だけじゃなくて身体にも悪い。だからこういった場所があるのはすごくありがたいです。
来てくださった方の反応を見たり、おしゃべりしながらとかしながら作業の時間が取れて、本当にラッキー。
こちら(ショップ)の大家さんは、何かを作ったり活動をしている作家に理解がある方で、私のように何かをはじめたい人が借りやすいようにしてくださっています。東長崎は街自体も、そういう人に優しくてみなさん応援してくださるんです。」
───先程併設のチョコレート屋さんで、ちょうどこの街の手作りのマップをいただいたんですが、ものづくりに関するお店も掲載されていてマップ片手にこのあたりを散策したくなりました。
「なかなか作れないですよね、こういうマップ!
あまり目立ってはいないんですが、宝の地図みたいに探しながら見て周れる駅なんです。最近は地図片手に涼みに来て、張り子も見てくださるような海外からの観光客の方もいるんです。」
───張り子は日本特有のアイテムですもんね。池袋が近いからインバウンドのお客様も増えているんですね。
「英語で張り子を説明するのが難しくて……!紙で出来ていて、このモチーフは招き猫といって……とか。日本文化に詳しい方だと、ああ招き猫!ってなってくれるんですけど笑頑張って丁寧に説明しています。」
───今日初めて東長崎に来たのですが、街自体にもなんだか興味が出てきました!
「面白い街ですよ。最近はメディアに露出することも増えてきていて、発信している方もいたりして。ライターさんが運営している本屋さんもあるんですよ。他にもハンドメイドの作品を展示しているお店もあって……」
───すごく楽しそうです!さっそく帰りに寄って帰りたいと思います。
ショップの雰囲気と張り子の素朴さが相まって、とてもリラックスした雰囲気でお話を伺うことが出来ました。
肩の力を抜いて制作した、思わずほっとする井上千裕さんの張り子の世界に触れに、ぜひポップアップショップへ足を運んでいただきたいと思います。
そして井上さんのおすすめがきっかけで、インタビューのあと急遽ポップアップショップがある東長崎を街歩きしました!魅力的なお店を紹介予定ですので、そちらもぜひお楽しみに。
張り子作家 井上千裕
Instagram:https://www.instagram.com/chihiro__inoue
張り子SHOP harikokko
住所:〒171-0051東京都豊島区長崎4-30-2-1階オディール
東長崎駅から徒歩3分/落合南長崎駅から徒歩12分
営業時間:毎週 金・土曜日 12:00〜18:30

