心を和ませるユルかわいい魅力 張り子作家、harikokkoの世界【前編】
あいまいな曲線に命をふきこむ、張り子人形。古くから愛されてきた張り子をあたたかくユーモアたっぷりな作風で表現する作家、井上千裕さんのポップアップショップにてお話を伺いました。
今回は前編をお送りいたします。
井上さんは毎週金・土曜に、西武池袋線の東長崎駅から徒歩3分にあるオディールにて張り子作品のポップアップショップ、harikokkoを展開しています。

チョコレートショップが併設する店内には作業台があり、井上さんはそこで張り子の絵付けをされていました。
───いつもポップアップショップの中で作業されているんですか?
「はい。作業しながら、来てくださったお客様の対応をしています。
(絵付けは)絵具で作業をしているので、購入時に名入れやメッセージを書き入れてくださいという要望に答えたりもしています。」

───張り子にその場で名入れって珍しいですね。
「そうですね。そもそも張り子だけを売っているという店自体があまりないかも」
───お土産屋さんにコーナーとして置かれているイメージがあります。
「このポップアップショップは曜日貸しで、私は金・土曜に借りています。週2日だけなので、他の曜日は別の方が借りているんです。(ポップアップショップは)一昨年の11月から毎週続けてきて、だんだん常連になってくれる方もいます。」
井上さんの過去のお仕事にはイラストレーションの作品も多く見受けられました。張り子や創作のルーツについても伺いました。
───本の装丁等、イラストレーションのお仕事も拝見いたしました。創作活動自体のスタートはイラストレーションからでしょうか。
「そうですね。美術大学でデザインを学び、その後イラストレーターの仕事をするようになりました。
張り子は趣味というか、誰に頼まれてはじめたわけでもなく興味があって、好きではじめたものなんです。張り子の販売をはじめたのも、作品が増えてきたから売るか!と思ったことが理由で。」
───趣味として張り子に興味を持ったきっかけを伺いたいです。
「張り子って割と全国的に郷土玩具として親しまれていて、父の実家がある香川にもあるんです。
だからか、私にとっては昔からとても身近なものでした。身近すぎて、大人になってからふと手に取った時にこれって何だっけ?なんて思ったりして笑
軽くて、前側にはしっかり絵付けしてあるのに後ろ側は無地で真っ白。なんてざっくりした人形だろう!って。でもそのざっくりした感じがなんだかとても曖昧で、自由なイメージに感じられていいなぁと。それから自分にも作れるのでは?と思い、張り子づくりをはじめました。」
───たしかに境界線が曖昧というか、そこがユルくてかわいい。
「形が曖昧なので、ベースが同じ形でも、絵付けで全く違った印象やデザインの見せ方に出来るところが面白いところでもありますね。白い張り子に絵付けをするワークショップをやると、同じ形なのに私が想像しないような出来になったりして。
張り子は立体ではあるんですが、私はイラストレーションの延長にもあると考えています。伝統的なモチーフにも影響を受けてアレンジをしたりもしているんですけど、平面と立体の間にあるものと考えながら絵付けしています。」
───張り子のベースを作る部分も独学で学ばれたのですか?
「そうなんです。独学です!」
───すごいですね!
「基本の作り方はすごくシンプルです。幼稚園などでやるような、水風船に半紙を貼り付けてランプシェードを作るような方法と似ています。作り方自体はシンプルですが、調べてみると実は製法がいっぱいあるので、材料を工夫したり型を変えて作ったりしながら自分の理想に近づくように選び取っています。」
───工芸品はどこかに弟子入りしないと学べないのかと思っていました。
「伝統的な張り子作りは弟子入りする場合もあるのですが、独学でもはじめることが出来るので、はじめやすいかもしれません。私の場合は、独学で書籍やYouTubeを見たり、実際に産地で製法について伺ったり、作家さんの張り子人形を集めたり工夫して学んでいます。独学の分全然上手くいかないこともあって、試行錯誤しながら今のかたちになりました。
新しい作家さんも増えてきたからか、最近は書籍なども増えて情報が入りやすくなってきていますね。」
───工芸品としては間口の広い分野なんですね。
「そうですね。大量に作ろうと思わなければ、A4くらいの紙が置ける広さがあれば作れるのでそんなにスペースも要らないですし。」
───そんな省スペースで!
「出来ないことはないです笑」
───因みに張り子を趣味としてはじめてからどれくらい経ちましたか?
「おそらく10年は経ってないと思います。たぶん7、8年くらい。
このポップアップショップをはじめるまでは、定期的にイベントに参加することもしてなくて。お店をはじめる前に池袋のあるお店のイベントに出展した際、爆発的に作品数が増えたことがきっかけで活動を広げてみようかなと思えましたね。」
ポップアップショップに並ぶ井上さんの作品には、時折ユルい雰囲気がかわいいペンギンが登場します。
実は筆者が井上さんへお声がけしようと思ったきっかけの作品も、ペンギンのモチーフでした。

───ペンギンのモチーフの作品が多く見られますが、ペンギンがお好きなんですか?
「はじめて張り子で作ったモチーフがペンギンなんです!それからペンギンを作り続けています。ペンギンのフォルムが好きで。」
───ここまでお話しを伺ってみると、ペンギンってちょっと張り子向けのフォルムしてますよね、丸みのある感じが笑
「実際のペンギンの写真を見ると、シュッとしていて全然ちがうんですけどね笑
季節のモチーフを持たせたりしていつも何かしらペンギンの作品を作っていて。ちょっとずつ仲間が増えていっています。」
───すごくかわいいです!
「ペンギンはなんというか、作っている時に心をユルい感じにすればするほど出来が良いというか、失敗がなくて。
顔つきとか、全部同じにならないところが張り子の魅力だと思っていて。
全部一緒にしなきゃ!と神経を尖らせていた時期もあったんですが、違うことが手作りの味で、それぞれに個性があることが魅力かなって。ほっとした気持ちで作品を眺められるように、楽しく作ってます。」
───買う側としても、どのお顔の子をお迎えしようかなと選ぶ楽しみにもつながりますね。
「パッとひと目見て、この子だ!と思う時があるそうです。
うちの子が産まれた時の顔にそっくりと言って買ってくださる方がいたり、うちの犬に似てるからと買ってくださる方がいたり。ひとつひとつに個性があるからこそ、共感してくださる作品になれているのかなって。そう考えると面白いなぁと思って眺めてます笑」
───私もプレゼントでいただいた張り子を自宅に飾っているんですが、表情のユルさはやはり魅力的ですね。
「張り子は素朴で気持ちに寄り添う雰囲気があるので、人に贈るものとしてもおすすめです!(ポップアップショップと併設の)チョコレート屋さんにも張り子を置かせてもらっていて。チョコレートのギフトにハートや母の日のカーネーションを持ったペンギンや招き猫を添えて贈れるようにしているんです。」

───プレゼントを受け取った時にきっとほっとしますね。
「押し付けがましくなくていいなと思います。おすすめです!」
前半はここまで。独学で趣味としてはじめて、今ではショップを展開するまでになった張り子の素朴なあたたかさは、お客様だけでなく井上さんの心にも寄り添ってフィットしていると感じました。
後編では張り子の制作についてもう少し深く、そしてショップのある東長崎について触れていきます。後編もぜひ、お楽しみください。
張り子作家 井上千裕
Instagram:https://www.instagram.com/chihiro__inoue
張り子SHOP harikokko
住所:〒171-0051東京都豊島区長崎4-30-2-1階オディール
東長崎駅から徒歩3分/落合南長崎駅から徒歩12分
営業時間:毎週 金・土曜日 12:00〜18:30

