ベトナム生まれのビタミンムービー 映画レビュー『サイゴン・クチュール』
ベトナムの伝統的な衣装、アオザイ。今回は鮮やかな色合いが魅力のアオザイの仕立て屋の家系に生まれた女性の、時をかける冒険を描いた映画『サイゴン・クチュール』を紹介いたします。ベトナム映画未体験な方にもおすすめです。
あらすじ
『サイゴン・クチュール』(英題:Co Ba Sai Gon )
1969年ベトナムの都市、サイゴン。美しい娘ニュイは、ミス・サイゴンに選ばれた自身の美貌とファッションセンスに自信があった。9代続くアオザイの仕立て屋の娘である彼女にとって、アオザイの伝統的なセンスは正直ちっとも魅力的ではなく、職人である母とも対立してしまっていた。ひょんなことからニュイは21世紀にタイムスリップ!48年後の未来の自分と家業の店舗は変わり果てた姿に…… ニュイは残酷な未来を変えるため、21世紀のファッション業界を奔走する───
2017年製作の、ベトナム映画界のヒットメーカー、グエン・ケイ監督作品。
色鮮やかな世界観

アオザイ専門店の娘であるニュイが心奪われた60年代のファッション、当時流行したカラフルな色使いの洋装、そして現代でニュイが出会う最新のファッションが色鮮やかに画面を彩ります。
60年代のファッションや彼女が毛嫌いする美しいアオザイは、1980年代の日本に生まれ育った筆者には馴染みはなく、これまで触れる機会があまりありませんでした。しかし当時を生きるひとりとして、もしくはアオザイが伝統的な衣装として親しまれているベトナムに生まれ育つひとりとして生き生きと描かれている登場人物を通してそれらを見ると、そのどちらにも次第に親近感が湧いてきました。時代も国も異なりますが、カラフルなファッションがずらりと並ぶ世界観は月並みな言葉になってしまいますが、すごく可愛い!
特にニュイの母が作ったオレンジ色のシルク製のアオザイは作中屈指の美しさでした。シルクサテンの光沢も、胸に留められたヒスイも、施された大ぶりの不死鳥の刺しゅう、どれを取っても素晴らしい作品で、ニュイが思わず手に取ってしまったのも頷けます。
ファッション×成長

1969年からタイムスリップをして2017年にやってきたニュイは自分のセンスに自信があり少々わがまま。最先端のデザイン事務所でもその自信を振りかざしますが、従業員たちからは“骨董品”扱いを受けてしまいました。しかし年代が異なっても「ファッションが好き」という気持ちは、従業員も彼女も同じ。現代のファッションの知識をどんどん吸収し、めげるどころかポジティブに立ち向かっていくニュイの姿は、どこか憎めません。本来ならば、古めかしい人間だと馬鹿にされた時点で機嫌を損ねて逃げ出してしまいそうなのに、彼女はそうしなかった。彼女がデザイン事務所に来た目的を達成するためでもありますが、彼女が何よりも好きなファッションのことでは周囲に負けたくないという気概があったようにも感じます。負けじと吸収し、成功体験を得たからこそ彼女は苦手としていたことにも挑戦出来たのではないでしょうか。
ニュイというひとりの女性の成長譚としても、見どころのある作品です。
さいごに
果たして彼女は、自らが嘆いた未来を回避することが出来るのでしょうか。
なかなか馴染みのないアオザイづくりや60年代のファッションがテーマの作品ではありますが、ニュイが自分を変えようと励む様子から元気がもらえる作品だと思います。ぜひ作品の息抜きにチェックしてみてはいかがでしょうか。コメディタッチで親しみやすさもあるので、ベトナム映画の入口としてもおすすめです。