作る人も読みたくなる 手仕事体験コミックレビュー『手に持って、行こう』
伝統的なものづくりや工芸品は、同じ日本で生まれ育っていても、実際に見たり触れたりする機会は現代ではそう多くありません。
今回は、シリーズ累計100万部を突破した人気作『ダーリンは外国人』で知られる、小栗左多里さんとトニー・ラズロさんによる共著作品をご紹介します。ヨーロッパにルーツを持つアメリカ人の“ダーリン”トニーさんの視点と、岐阜県出身のパートナー・さおりさんの視点、ふたつの視点から日本の手仕事に触れるものづくりエッセイコミック『手に持って、行こう ダーリンの手仕事にっぽん 刃物・和紙・器編』です。
あらすじ
岐阜県出身のさおりさんと、ヨーロッパにルーツを持つアメリカ人のトニーさんが、日本の伝統的な手仕事を体験!刀匠の工房での包丁づくり、美濃和紙を漉いての提灯づくり、さらに陶芸で器づくりにも挑戦します。初めて触れる工程に思いがけず戸惑いながらも、職人の技や道具に込められた歴史や、ものづくりの奥深さを実感していきます。さおりさんによるコミックと、トニーさんによるコラムのふたつの視点から描かれる制作の様子は、異なる文化背景を持つふたりならではの気づきや発見が楽しめます。
『手に持って、行こう ダーリンの手仕事にっぽん 刃物・和紙・器編』(小栗 左多里 、トニー・ラズロ/ポプラ社)

日本のものづくりと世界のものづくり
まずはじめにふたりが体験した刀匠のもとでの包丁づくり。さおりさんは自分の力でも扱いやすい小ぶりで軽いものを、トニーさんは「家にまだないものを」と考え、チーズナイフを打つことに挑戦します。鍛冶は打つ力が要るだけでなく、「ほど」と呼ばれる炉での加熱から打つまでのスピードも必要。文字通り全身を使って奮闘するふたりの様子は大変そうですがどこか楽しそうで、ものづくりに向き合う楽しさも伝わってきます。
作業の描写の合間に、「切羽詰まる」「単刀直入」「地団駄を踏む」など刀や鍛冶に由来する言葉とその解説も登場。普段何気なく使っている言葉の背景を知ることで、鍛冶仕事が日本の暮らしや文化に深く根付いてきたことを感じます。
等身大の体験談
特に印象的だったのはトニーさんが書かれたコラムの数々。トニーさんにとって「剣」と聞いて思い浮かぶのは日本刀ではなく、アーサー王伝説のエクスカリバー。ナイフとの距離感や、大工用のバールを打った経験など、育ってきた背景を踏まえて改めて包丁づくりのページを読み返すと、トニーさんの視点からものづくりを捉え直すことができ、体験談の奥行きがより深く感じます。
一方、岐阜生まれのさおりさんも特別ものづくりに精通しているわけではなく、驚きや戸惑いを素直に受け止めながら体験されています。その様子がとても等身大な姿で、読み進める毎になんだか親近感がわき、ものづくりの世界自体も身近に感じさせてくれます。
さいごに
異なる文化や立場から手仕事を見つめるふたりの視点が重なる本作。日本のものづくりの魅力がぐっと立体的に伝わる一冊です。ものづくりそのものの楽しさや歴史、文化を絡めて楽しむことが出来るので、日々の制作に向き合う中で少し手を止めてひと息つく、そんなタイミングにぜひチェックしてみていただきたいです。


