コスプレ愛が爆発! コミックスレビュー「その着せ替え人形は恋をする」
目次
ものづくりの愛は、時に作品のジャンルを越えて共感するがことがあります。
今回はそんな「垣根を越える」ものづくりへの愛を感じることが出来るコミック、『その着せ替え人形は恋をする(そのビスク・ドールはこいをする)』を紹介いたします。
あらすじ
主人公の五条 新菜(ごじょう わかな)は、雛人形店を経営する家に生まれ育ち、雛人形の顔を制作する“頭師”である祖父に憧れ自らも頭師を志す高校生。幼い頃に友人から「なんで男の子なのに女の子の人形が好きなの」「気持ち悪い」と言われたことがきっかけで、雛人形が好きなことを周囲に隠し続けてきた。ある日、ひょんなことからクラスメイトのカースト上位のギャル、喜多川 海夢(きたがわ まりん)にミシンが使えることを知られてしまい、それがきっかけで彼女のコスプレ用の衣装を制作することに。
福田晋一作、『ヤングガンガン』にて、2018年連載中。「着せ恋」の略称で愛され、2023年4月時点で累計発行部数は850万部を突破したコスプレ青春ラブコメディ。
「好き」はジャンルの垣根を越えていく
新菜の制作愛は雛人形へ真っすぐに注がれていました。彼が辛うじて裁縫という共通点のある、「コスプレ用の衣装制作」という“別ジャンルの制作”を引き受けたのは、海夢が否定されることを恐れて誰にも話すことがなかった雛人形制作への「好き」を肯定してくれたことがきっかけでした。初めは慣れなかった制作も、原作の設定やストーリーなどを理解したり、初心者向けのガイドや手芸店の店員のアドバイスをどんどん吸収して技術に磨きがかかっていきます。雛人形制作で培った向上心やひたむきで衣装の制作に臨む姿勢は、雛人形と衣装という垣根を軽々と越えてみせてくれます。新菜が悩みながらも実に楽しそうに制作する姿を見ていると、つい自分もなにか作りたくなってしまうでしょう。
肯定される「好き」
前述のように、新菜が海夢からの依頼を受けたのは彼の雛人形への「好き」を肯定してくれたと感じたことがきっかけで理由でした。この作品の見どころのひとつは新菜と海夢が惹かれ合う初々しいラブコメ要素満載のシーンですが、もうひとつの見どころは新菜がコスプレ衣装制作を通して周囲に心を開き、頑なになっていた部分が周囲の友人たちが「好き」を肯定してくれることで解れていくところだと感じています。
幼い頃に幼馴染から否定されたことを思い出してしまい、初めは海夢とも恐る恐る接していました。衣装制作にのめり込むに連れて、まずは海夢から、そのうちにコスプレイヤーや海夢を通じてクラスメイトと仲良くなっていきます。仲良くなっていく過程で制作物の衣装やつくることを周囲が肯定することで、読み手も肯定されている気持ちに。モノづくりを愛するひとりとしても新菜は応援したくなる主人公像なのです。
さいごに
可愛らしい画風も相まって、一見ラブコメ要素が大半を占めている作品に見えるかもしれません。しかし読んでみればコスプレ衣装を題材とした骨太な“モノづくり作品”なのが「その着せ替え人形は恋をする」の魅力。ぜひ制作の息抜きやリラックスタイムのモチベーションアップのために読んでみていただきたいです。