美しき洋裁の世界 映画レビュー「オートクチュール」
目次
- 1.あらすじ
- 2.美しい洋裁の世界
- 3.“つくる”を愛する心の芽生え
- 4.さいごに
ものづくりにはドラマが宿る。
今回は憧れる人も多い、ディオールのアトリエの世界を舞台に描かれたフランス映画「オートクチュール」を紹介いたします。お針子としての人生、ものづくりへのひたむきな情熱を感じられる作品です。
あらすじ
舞台はパリ。フランスが誇るラグジュアリーブランド、ディオールのアトリエで責任者を務めるエステルは年齢を理由に次のコレクションを最後に引退を予定している。ある日彼女は地下鉄でひったくりに合い、ひょんなことからひったくり犯の少女ジャドとの交流が始まる。ジャドの指先にお針子としての才能を見出したのです。移民系の子で学校にも通わず職にも就いていないジャドの状況を知り、エステルは彼女をお針子見習いとして指導しはじめる。生まれも育ちも年齢も全く異なるふたりの織り成す、ヒューマンドラマ。
シルビー・オハヨン監督によりフランスにて制作された、2022年日本公開作品です。
美しい洋裁の世界

滑らかなシルクの光沢や軽やかなシフォン、繊細な刺繍……
この作品の見どころのひとつは、何と言っても「さすが世界のディオール」と言いたくなる上質で美しい生地たち。ドレスが仕立てられる過程を映す際、観客がそれらに触れることが出来ない分、代わりに針子たちが制作中のドレスや素材としての生地に触れその上質さを語るシーンが作中の折々に登場します。特にジャドへ説明するシーンはとても丁寧で、筆者も観ていて少しワクワクしてしまいました。
アトリエに勤める針子たちは素材を大切していて、見習いになり立てのジャドへ「高級な生地を扱っているから手を洗って」と、作法としてその心を受け継ごうとしています。彼女たちの洋裁への愛と誇りは、仕立てる最中の生地への触れ方の優しさからも感じられるところが好感が持てます。
“つくる”を愛する心の芽生え
差別を受ける移民系の少女、ジャドはうつ病を患う母と、同じ移民系の人々が暮らす団地でふたり暮らし。母の友人やその娘に助けられながら生活しています。母の世話ばかりで、母から愛情を感じたことがない彼女は、人生に対しどこか悲観的で粗野な面が目立ちます。
アトリエでの見習い修行を通して、そんな彼女にも少しずつくることの楽しさや、上達の喜びが芽生えていきます。手に職をつけることでの生活の安定だけでなく、「なにかを出来るようになる」という成功体験が彼女を変えたのです。「作れた」という成功体験による達成感は、かつて初心者だったり今まさに初心者であるハンドメイドを愛するひとにも共感出来る点だと筆者は感じます。
さいごに

手仕事を生業としそれを人生と考えるお針子エステルや、洋裁との出会いで人生をいい方向へ変えようとしていくジャドの姿は、あなたの目にどう映るでしょうか。
たしかな美しさと見え隠れするそれぞれの葛藤や苦悩が共存する「オートクチュール」、ぜひご鑑賞ください。

