福井での眼鏡づくりのパイオニアたちを描く 映画レビュー「おしょりん」
目次
- 1.あらすじ
- 2.なにを思ってつくるのか
- 3.切磋琢磨する職人たち
- 4.さいごに
ものづくりに宿るドラマティック。その根源はひたむきなものづくりへの情熱なのかもしれない。
今回はそんな風に思わせてくれる、眼鏡の国内シェアトップの福井県が舞台の映画、『おしょりん』を紹介いたします。
あらすじ
舞台は明治時代の福井県。
北乃きい演じるむめは、福井県足羽郡麻生津村の庄屋の長男、増永五左衛門(小泉孝太郎)に嫁入り。
五左衛門は常々、農業が出来ない冬場に村の収入になる事業はないかと村のため悩んでいた。そこへ大阪で眼鏡を扱う商人の元で働いていた五左衛門の弟、幸八(森崎ウィン)が久々の里帰りをし、兄へ眼鏡づくりを持ちかける。当時は眼鏡そのものが物珍しく、大阪や東京といった都会でしか見かけることすらない。幸八はこれから近代化が進む日本では、今までよりもずっと活字を見ることが増えるし見る人も増える。だから視力を矯正する眼鏡は、これから需要が必ず高まると熱弁しますが、五左衛門と村の面々は眼鏡を訝し気に見るだけで、首を縦には振ってくれません。
しかし、ある村人の幼い娘がきっかけで状況は一変。彼女は目が悪く、これまで学校の黒板や親の顔すらもよく見えていなかった。眼鏡をかけることで両親の顔を見て笑顔になる少女の様子をみた五左衛門は、眼鏡づくりを決意。村の一大事業として取り組むことにしたのですが───
今や国内の眼鏡生産のトップとして名高い福井の眼鏡作りを、史実を基に作家の藤岡陽子が描いた同名小説が原作、児玉宜久監督の2023年公開作品です。(配給:KADOKAWA)
なにを思ってつくるのか
少女の笑顔がきっかけで始まった眼鏡づくりですが、初めは冬の農業が出来ない時期の村の収入源としての意味合いが強かったように感じました。手先の器用な者を筆頭に少しずつ技術を習得していきますが、なかなか思うような本数を卸すことは出来ません。なぜなら、単なる工業製品ではない眼鏡は、ただ作ればいいというわけではないのです。眼鏡づくりの指導役が作ったものと自分たちが作ったものとの違いは、「眼鏡をかける人のことを考えているか」。それを理解した職人たちは、村の収入源としてではなく、ものづくりとして眼鏡づくりに惹かれていきました。
切磋琢磨する職人たち
職人たちが技術を習得していく鍛錬のはもちろんですが、それまで同じ村の仲間としてではなく、ひとりの職人として切磋琢磨しはじめていく様子も見どころのひとつ。五左衛門ははじめ、「村のため」とよく口にしていましたが、職人たちの眼鏡づくりに対する情熱が高まるに連れ、「職人たちのため」の言葉が目立つようになります。彼らのために、裕福な自分の私財を投げうって、彼らの眼鏡づくりを後押しします。むめもそんな五左衛門の姿を見て、彼を支えるのでした。
さいごに
実は作品のはじめは、むめが淡い恋心を抱くところから物語がはじまるのですが、みんなで眼鏡づくりに力を入れていくうちに、登場人物たちは恋愛そっちのけになっていくのも、個人的にはものづくりのもつ魔力だな、なんて思いながら拝見しました。
筆者も普段は眼鏡をかけて生活しているので、眼鏡はなくてはならない存在です。もちろん、ハンドメイドを楽しむひとりとしても。
ものづくりを描いた作品では珍しく、人物と同じくらい土地にフォーカスした作品という楽しみ方も出来るので、ぜひ気になった方はチェックしてみてください。

