【ラグジュアリーなキャンプ食材の選び方】
外で食べるご飯は美味しい。
とはよく言うが、外でのご飯が美味しいことが科学的に証明されていることはご存知だろうか?
屋外にいると我々の脳は、危険を察知するためβ波という脳波を出す緊張状態に入るのだ。
その緊張状態でご飯という報酬を摂取すると、脳は報酬をより大きく、つまりより一層おいしく感じるのだという。
つまり我々は脳の作用によって、キャンプ中のご飯を普段に比べ「より美味しく」感じているのである。
特にゴールはなく「そこで生活すること」が目的であるキャンプにおいて、そんな「食」の充実はとても重要だ。
キャンプに持ち込む食材によって、そのキャンプのラグジュアリー度合いが決定すると言っても良いだろう。
その証拠に、一流シェフが料理を作る最もラグジュアリーなキャンプは、もはや「グランピング」と名前を変えてしまった。
それでは、どのような食材を選べばラグジュアリーなキャンプができるのだろうか?
今回はそんな答えを読者のみなさまと共に探るべく、私が経験した二つのキャンプでのエピソードを例に出させて頂きたい。
一般的に見てかなりラグジュアリーなキャンプと、その対極にあるようなキャンプである。
このエピソードが食材選びの鍵を握っているかもしれない。
ベテランキャンパーとのラグジュアリーなキャンプ
キャンプ好きとして、ある意味独自路線を進んでしまっている私だが、つい先日とあるベテランキャンパーの方々と共にキャンプをさせて頂く機会があった。
時期は雪でも降ろうかという1月下旬。
寒さ対策が必要な冬キャンプに慣れていない私は、緊張しながらキャンプ場へ向かった。
しばらく待っていると、キャンピングトレーラーを引きながら現れたのは、およそキャンプ場に似つかわしくないスカイブルーの1980年式ベンツである。
格好良すぎる!
まるで雑誌の表紙のようなこのキャンプと、ほぼ遭難者のような普段の私のキャンプが同じカテゴリーだというのだから驚きである。
部屋を丸ごと持ってきたのかと思えるトレーラーは暖かく、ツーバーナーのガスコンロで用意して頂いたご飯はなんと揚げたてのカキフライだった!
鮮度に注意が必要なカキをキャンプに持ち込むなど自殺行為だが、冷蔵庫があるので問題はない。
これが私の野営キャンプであれば一家全滅である。
翌朝にはホットケーキミックスを使ったホットサンドを頂き、山にいるというより街中の喫茶店にいるような感覚で食事をさせて頂いた。
まさかキャンプ中にこんな素敵な食事を食べられるとは…
ベテランキャンパーのキャンプはこんなにもラグジュアリーなのかと体験させて頂いた一日である。
ラグジュアリーと対極にある無人島でのキャンプ
無人島で妻と行ったサバイバルキャンプでは主にモリ突き漁で得た魚を食料としていたが、漁は最初から上手くいった訳ではない。
最初の漁では全く魚が獲れなかったのである。
それでも死に物狂いで魚を追いかけ、なんとか捕まえた小魚を一匹テントに持ち帰った時は、これからの数日間を想像し天を見上げる他なかった。
そんな時、最後の希望だったのが「カメノテ」である。
「カメノテ」とは日本の多くの岸辺に生息し、カキのように岩にくっ付いて生息する貝のようなもののことだ。
(“貝のようなもの”とは遠回しな表現だが、実はカメノテは甲殻類なのである。)
日本では味噌汁の具などに使われ、海外でもスペインやポルトガルで食べられているそうで、その存在は岸辺で食べられる代表的な生き物として知っていた。
いざとなればカメノテを集めて食べれば良い。
単純にそう思っていたのだが…
夕方、やはり小魚一匹を手に海から帰ってきた私は空腹の限界を迎えていた。
「カメノテ!カメノテ食おう!」
必死で岩からカメノテをひっぺがそうとするも、奴らは硬い。
それでも石で叩きつつ、なんとか数が集まった時にはもう辺りは暗くなっていた。
火を起こさねば!!
魚を食べるにもカメノテに火を通すにも、焚き火がないと何もできない!
走って戻り、急いで火を起こそうとするもなかなか火は点かない。
当然だ。全身ずぶ濡れである。
どんどん暗くなる空とどんどん迫る空腹に焦りつつ、なんとか火を起こすことができた。
「これ、砂抜きしなくて良いのかな?」
妻が何か言っているが、聞いている余裕などない。
「とりあえず茹でよう!」
茹でている間も空腹の限界は迫るが、濡れた身体を乾かすのに焚き火は好都合だ。
しばらく待ってほかほかし始めたカメノテの殻を剥く。
小さいがプルプルしていて美味しそうだ。
「いただきます!」
ジャリッ!!
「……」
当然だ。砂抜きしていないのである。
結局我々は、砂だらけのままカメノテを頂くことになった。
結局カメノテを食べたのはこの1回のみである。
まとめ
カキもカメノテも、どちらも同じ岩に張り付く貝(のようなもの)であるが、そのラグジュアリー度合いはずいぶん違うらしい。
やはりキャンプにはカキフライが一番だ。
と締めたいところだが、
「いやいや食材の違いではなくロケーションの違いじゃないか」
と鋭いみなさまからツッコミを頂きそうなので、この結論は一旦取りやめよう。
とはいえ、取りやめるのはツッコミが怖いからだけではない。
やはりキャンプで食べる美味しいカキフライは特別だったが、それと同じくらい砂だらけのカメノテも私にとっては特別だったことに気付いたからである。
硬いカメノテを石で叩いたことも、ずぶ濡れで火を起こそうとしたことも、砂抜きを待てないほど空腹だったことも、一般的にラグジュアリーではないかもしれないが、どれも後から思い返すと特別な思い出である。
冒頭にあるように、脳は絶対値ではなく相対的に感情を決定する。
いついかなる時もカメノテは10の美味しさ、カキは20の美味しさ、と絶対的に決まっている訳ではなく「この状況でこれ食べたらめっちゃ美味いよね」という幅を脳は持っているらしい。
そうなれば当然、人によって好き嫌いがあるように、人によって何にラグジュアリーを感じるかは違って当たり前なのである。
自分にとって100にも1000にも感じるほど美味しい食材が、もしかするとまだあるのかもしれない。
そんな食材を探すためにキャンプをするのもおもしろいではないか!
ただ、経験から一つだけ気をつけて欲しいことがある。
砂抜きはした方がいい。
タカタナカ